国内外で実務経験を積んだ「総務のプロ」が語る、活躍する総務パーソンとは(1/2)

株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範さん(右)と株式会社ゼロイン バックオフィスデザイン部 部門長 靜昌希(左)

「活躍する総務パーソン」とは?

社会やビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、企業は世の中の動きを捉え、柔軟に変化し続けていくことがより求められるようになっています。会社を支える「総務」においても、既存のルールや運用方法に固執することなく、社外の知見を取り入れながら、会社をアップデートしていくことが期待されています。

今回の企画では、さまざまな企業の「総務」を社内外からサポートする株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範さん(以下、金さん)に、これからの社会で「活躍する総務」について、個人と組織の両軸から語っていただきました。聞き手は株式会社ゼロインの靜昌希(以下、靜)です。

株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範

「総務から社員を元気に、会社を元気に!」がモットー。大学では建築学を専攻し、卒業後はオフィス設計事務所にて勤務。その後ファシリティマネジメントを学ぶため米国大学院へ修士留学。帰国後は、モルガン・スタンレー・グループ株式会社へ入社し、25年以上に渡り、日系・外資系大企業の計7社にて総務・ファシリティマネジメントの実務経験を積んだ「総務のプロ」。

株式会社ゼロイン バックオフィスデザイン部 部門長 靜昌希

1999年、ゼロイン入社。総務専門のアウトソーシング事業において、日系・外資系大企業に常駐し、業務を担当。多様な総務の現場に入り込み、総務に寄せられる数多くの悩みを聞いてきた。現在、100名以上のスタッフが在籍するバックオフィスデザイン事業部にて部門長を務める。企業理念の「すべての“働く”を元気にする」の実現に向け、顧客と総務のありたい姿を描きながら、「総務から会社を変える」ことをサポート中。

社会の変化を受ける総務

靜 金さんは25年以上、総務に携わっていますよね。総務は「何でも屋」と言われてきましたが、社会が変化する中で、総務に対する期待の変化を感じられることはありますか。

金さん 総務のプロフェッショナリティに対する期待は年々高まっていると感じます。総務は柔軟な対応を求められるポジションなので、世の中の流れに合わせてタイムリーに対策を立てていく必要があります。たとえば、ある時期はBCPが注目され、総務はBCP対応に追われました。しかし、一定期間が過ぎると世の中のトレンドが変わり、コンプライアンスやガバナンスの強化が最重要課題になることもありました。

こうした新たなトレンドに対応する場合、大企業では専門部署が存在することもありますが、小さな会社では他の部署で対応できない仕事は、まず総務が引き受ける傾向にあります。

そのため、総務は一度、幅広い業務の専門性を社内でいち早く解釈し実践する「アーリアダプター」になる必要があります。会社が大きくなるにつれて、総務からテクノロジーや経理などの専門業務が切り離されていきますが、総務はすべての業務の通過点になるので、世の中の変化が激しいほど、総務がやらなければならない仕事は増えていきます。

たとえば、ここ数年の大きな流れの中で、社員に対するサービス需要が不動産やオフィスつくりのような「ハード」から、ウェルビーイングに代表される「ソフト」へと変わっているように感じられます。

株式会社Hite & Co. 代表取締役社長 金英範さん 株式会社Hite & Co. 代表取締役社長 金英範さん

金さん 最近では、「世の中のトレンドや変化に合わせて、会社の働き方や働く場、そしてカルチャーを変えてほしい」といった、非常に難易度の高いテーマを求められることも増えているようです。総務は日常的なルーチンワークをこなすオペレーション業務だけではなく、より戦略的な業務へのシフトが必要になっていると言えます。

 まさに、世の中の変化とともに総務が早い段階で対策に動いていく、というのはありますよね。総務は全社の組織と関わりを持つので、たとえば法改正が行われると、他部署と連携してコンプライアンスやセキュリティの見直しや、影響範囲の確認が必要になります。他にも、上場など会社のフェーズが変わるときには、そこに対してもビビッドにアクションをしていかなければなりません。

戦略を実行するためのオペレーション体制

 総務に求められる仕事が、オペレーションから戦略的な業務にシフトするときに、もとの総務リソースで、戦略立案とオペレーションを同時に実行するのは、非常に難易度が高いと感じています。

金さん 急に前述のような戦略的業務に対応しようとしても、知見がなければ自社の総務が今どのような状態で、これから何を目指して、そのために何をすべきか?を明確にすることは難しいと思います。

また、戦略的業務に時間を使うことで、会社の基盤となるオペレーション業務を疎かにするわけにもいきません。そのとき、外部リソースの活用は一つの解決手段になると思います。世の中のトレンドを知っている外部アウトソーサーにマネジメントやオペレーショナルな業務は任せつつ、自分たちが本当に取り組まねばならない戦略的な業務などのミッションに専念できる環境をつくる。こうした「攻め」の姿勢を取り入れなければ、これまでの体制・やり方のままで対応するのはなかなか難しいでしょうし、自社がジリジリと競争不利な状況になってしまいます。

靜 ゼロインは総務アウトソーサーとして、戦略策定からオペレーション設計・実行まで一手に担っています。実際、金さんがお話されたような、組織の体制変更を伴うお問い合わせは増えています。

人材流動化や市場での競争が激しくなる中で、会社がどの方向に向かうのかが明確になっていなければ、人材確保もままならない時代です。ゼロインのようなアウトソーサーも、業務代行といった機能的なサービスに加えて、総務から会社のブランド価値を高めるような戦略をお客様と一緒に描くことが求められていると感じます。

株式会社ゼロイン バックオフィスデザイン部 部門長 靜昌希 株式会社ゼロイン バックオフィスデザイン部 部門長 靜昌希

総務に求められるスキルやスタンス

靜 総務に求められる仕事の幅が広がり、難易度も上がっているわけですが、総務パーソンには、どのようなスキルやスタンスが必要になるのでしょうか。

金さん 総務として一人前になるには、最低3社程度での総務経験があると自然にその実力は付きますが、実際に転職してその経験を積もうとすると、時間がかかりますし、リスクが伴います。1社で総務を長年経験することも選択肢の一つですが、そのケースでは外部への接点を常に保つことが重要となります。最近は、多様な会社の総務がつながれるコミュニティも増えているので、そうしたネットワークを活用して、社内に閉じこもるのではなく、社外の総務を知り、客観的に自社の総務を見直すことが重要ですね。

他社の総務の知見を得ることは、自分自身の能力を確認し、アップデートするという意味でも重要だと思いますし、自社の総務業務の取り組み範囲やレベル感を社内に客観的に説明する際にも役立ちます。

靜 総務パーソンとしてレベルアップするには、どのような仕事の進め方をすると良いのでしょうか。金さんはどのように取り組まれてきましたか。

金さん まずは自分の目の前にいる「先生」、つまり外部専門家や委託先専門業者の方々に「聞く」ことが重要だと思います。外部プロの方々は「分からないので教えてください」と素直に伝えると、自分が想像する以上にさまざまな情報を教えてくれます。「聞く姿勢」が自分の成長には一番重要です。各領域の専門家と比べると、自分の知識は不足しているので、常にアップデートが必要です。

私が総務担当者だった頃、データケーブルの配線を行う会社に半年間ついて回って、パッチワークの仕事を熱心に聞いて教えてもらったことがあります。ベンダーの方はやりづらかったかもしれませんが、すごく親身に教えてくれました。お客さんが質問してくれると、多分ベンダーとしても面白いと思いますし、仕事にやりがいが生まれますよね。

自分が学び知識をつけることも重要ですし、ベンダーの方々をやる気にさせるのも総務の大切な仕事です。その意味で、「聞く」総務の方が伸びると思います。

株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範さん

靜 私も新人の頃にファシリティの仕事で地方をまわっていたのですが、ご当地の職人さんに沢山質問をして可愛がられたことを思いだしました。どうベンダーの懐に入り、深い関係性を築けるかで、仕事の中身や質が大きく変わっていきますよね。

金さん 実は当初は私自身、建築という専門性があったので、ベンダーに細かく指示を出していたのですが、行き詰まって仕事が上手くいかないことがありました。その時に海外の上司から「指示はあなたの仕事ではない。聞くことがあなたの仕事で、まとめることがあなたの仕事だ」とアドバイスされました。そこで、積極的に聞くようにしたところ、プロの意見を取り入れられるようになり、そこに自分の判断を加えるという仕事のやり方に安心感を持てるようになりました。また、自分自身も楽になりました。専門的な資格や知識は、時として仕事にやりづらさを生みだします。総務の立場で、外部に対して専門家のような振る舞いをすることは得策ではないことに気づき、自分の名刺から一級建築士の記載を削除してコミュニケーションするようにしたところ、さらに総務の仕事のパフォーマンスが向上しました。社内に対して「専門家」として振る舞うことは重要ですが、外部に対しては「素人」として振る舞う方が効果が出る仕事です。総務という仕事の本質はそこにあります。笑

キャリアアップする総務パーソン

靜 総務の仕事は専門性が身につかず、自社でしか活かせないと考えている人も多いようです。どのように総務としてキャリアアップを実現できるのでしょうか。

金さん 総務担当者の方と話をしていると、自分の仕事が他社では使い物にならないとネガティブに考えている方が多いのですが、そんなことはありません。一般社団法人FOSC(ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム)で、総務の業務内容とスキルが定義されているのですが、そうした基準と今の仕事を照らし合わせると、自分の能力を客観視できるようになります。また、足りないスキルや業務があれば、それらを補う仕事に意識的に取り組むことで、他の会社でも通用するような市場価値を高める行動ができます。

会社に生きるのではなく、総務の職に生きる、という考え方に切り替えてみると良いですね。客観的な指標を取り入れることで自信を持てるようになります。

総務は日々、学ぶことが多い仕事です。「職種として楽しい仕事だ」と捉えられた瞬間に、人は大きく変わります。総務の仕事にまだまだチャンスがあることに気づけると、たとえばセミナーに参加して外部の情報を取りに行くようになり、さらにやる気が出て仕事が楽しくなります。

靜 自分の仕事が経営に関わっていると感じたり、この会社のどこに繋がっているのかが見えたりした瞬間に、自分からさまざまなことを学びに行くようになりますよね。

金さん 自社の社員1人あたりのファシリティコストがいくらかを調べてみて、それを一般的なベンチマークと比べてみるだけでも十分に戦略的な仕事になりますよね。調べれば調べるほど、課題や新たな発見が見えてきて段々と面白くなっていきます。他社とも比較したくなりますし、さらに上流の戦略的な仕事は何かと考えていくと、やるべきことがまだあることに気づくと思います。

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